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 物を残すのは瞬の嫌うところだった。
 いずれ消える自分の痕跡は残すべきではないと思っていた。





「龍馬さんって今日が誕生日なんですね」
「ああ。睦月の三日。覚えやすいだろ?」
「そうですね。でも、当日になると忙しくて祝い忘れてしまいそうな……」
「お嬢……なかなかぐさりと来ることを……」

 龍馬とゆきがそういう会話を耳にしていることを聞いて、瞬も初めて龍馬が誕生日であることを知った。
 知ったところで、今更何かを用意することなど出来ない。何故なら今は正月の三が日なのだから、街で市などはしていないのだから、何かを買うことも難しい。
 そして、瞬には関係のない話なのだ。形に何かを残すことは望むところではない。いずれ消える自分が何かを残すことはあまりに残忍なことを瞬も知っている。それは他人を縛る呪いのようなもので、だから瞬は何かを形に残すことを避けた。大切な人であればこそ、全うに幸せになってほしいと思う。
 だから、当日に知ろうがもっと前から知っていようが、結果が変わらない。というのに、瞬の心の内はざわざわとしていた。どこか落ち着かなくて、瞬はそのままその場を後にした。





 異世界に来ている以上、瞬の持ち物は少ない。いくつか持ってきた医学書や歴史書、そして役に立ちはしないというのに携帯電話が一台だけだ。異世界へ来た時に不思議と持っていた物で、使うことはないと知りながらも、そのまま持ち続けていた。
 様々装飾品で飾ることを瞬はしないのだが、携帯電話にはストラップが一つだけ付いている。これは何より他人の物との区別を付ける意味合いが強く、ゆきが瞬に似合う色だと、そう言ったとんぼ玉のストラップを付けていた。
 瞬はそのストラップをするりと外す。コロンとした小さなストラップは、それ単体では無くしてしまいそうな物だ。藍色に近い青のとんぼ玉は、確かに瞬に似合う色なのだろう。暗く、冷たい色はまさに自分を表しているようだと思った。対となる男も青龍に選ばれただけあって、濃い青もよく似合うのだろうが、瞬が抱く龍馬のイメージは明るく、温かい色だった。冷えた色よりも明るい色の方が似合うとは思うのだが、不思議と渡したいと思うのはこの冷えた色だった。

「おーい、瞬?急に部屋から出ていってどうしたんだ?」
「…………部屋に入る時は一言断りを入れてから入れ」
「細かいことは気にしなさんな。探し物でも………って、綺麗な物持ってるな。向こうの世界の物か?」
「ああ」

 興味があるのだろうか。まじまじとストラップを見る龍馬に、瞬はそれを手渡した。
 瞬が予想した通り、龍馬はそれを好奇心に満ちた目でしげしげと眺める。やはり群青もよく似合うが、それはやはり瞬の色で、龍馬の本質を表してはいない。もっと淡い青、晴れた空の色の方がそれらしいと思った。

「そんなにそれに興味があるのか?」
「そりゃまあ……とんぼ玉みたいだが、柄が違うし、こんな形状の物は見ないからな。どう使うんだ?」
「物に引っかけたらいい」

 瞬は一度龍馬からストラップを受け取って、携帯電話に通してみせる。龍馬はおお、と感嘆と納得が混ざった声を上げ、変わらず興味深そうにそれを見詰めた。
 瞬はそれをまた外し、龍馬に手渡した。

「え?もしかしてくれんのかい?」
「ああ」

 愚かな行為だと、瞬はそう思った。物を残すことを避けてきた筈なのに、何故物を残すのか。物質は記憶と違い、確かに存在するもので消えるものではない。瞬は消えてしまっても、その物自体が残ってしまえば、痛みを伴う物となるかもしれない。そうなると、それは瞬の望むところではない筈で、また先程から考えていた通り、その色はどちらかと言えば瞬の色で、瞬が抱く龍馬のイメージとは違う。それでも、瞬はそれを渡すことを選んだ。

「誕生日なのだろう?」
「まあ、そりゃそうだが……いいのか?」
「ああ」

 自分を忘れてほしくない。
 ほんの小さな片鱗でも構わないから、覚えていてほしい。
 愚かで、情けない願いだと瞬はまるで泣き出したくなるような心境だった。どれだけ綺麗事を並べても到底繕えるような、情けない本心をさらけ出すような真似をしたところで瞬は自らの首を絞めているのと同じことだと、そう知りながらも、願いを止められなかった。
 ストラップは自分で購入した物で、瞬以外と関わりがない。もしかしたらこれも龍馬の手元には戻らないかもしれない。ならば、おそらく瞬の最後の我が侭も許される気がした。

「そうか……ありがとな、瞬」

 そう言って、龍馬は屈託なく笑う。瞬の内心を知らずに笑い掛ける。瞬にはそれで良かった。知られたいとは思わないし、そうやって何も知らずに変わらずにほんの少しの時間を過ごすことが瞬の願いなのだから。




































あとがき
 まぁ、瞬兄の誕生日は当然これの対になる話なのです。そして1月の龍馬さんの誕生日の段階ではおそらく天海戦の直前くらいなのですが、瞬兄の誕生日には丁度ED直後くらいになるわけです。これは龍瞬長編前提で書いているので、長編書き終わらないと書けないわけです。ということは間に合わない可能性が割と濃厚ということでして(^q^)
 とりあえず、頑張ってみます。そして割と今回思った通りに書けなかったんですよねorz

 ここまで読んで下さってありがとうございます。















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