ゆきや都、そして祟の元からこちらにいた三人以外に、龍馬と共に現代と呼ばれるこの世界に瞬は帰ってきたが、慌ただしい日々を過ごしていた。
 現代の生活に慣れるように尽力するのは大変だったが、瞬は十分に満足していた。今まで望めなかった未来があるだけでなく、愛しい人が傍にいる。その幸せを噛み締める日々は、思っていた以上に瞬に精神的充足を与えた。

「瞬兄、お誕生おめでとう」
「ありがとうございます」

 そうして日々を過ごすうちに、あっという間に瞬の誕生日を迎えた。自分の誕生日だからと言って、特別な感慨があるわけではないが、瞬の誕生日には必ずゆきの家族が祝いをしてくれる。そのそわそわとした空気で、瞬は自分の誕生日だと気付く。そのように血の繋がりのない自分を、この年齢になっても祝ってくれることはありがたいことだ。

「今年もね、瞬兄の大好きな物を用意したんだよ」
「……そうですか」

 和食とケーキが並ぶテーブルには毎回違和感を覚えるものの、これが自分の誕生日なのだから、何も言わずに素直に受け止めることにしている。

「龍馬さん、遅いなあ……何かあったのかな?」
「龍馬も呼んでいるんですか?」
「うん。瞬兄もそっちの方が喜ぶかなって思って」

 流石に現代に来た龍馬を、長い期間、ゆき達の家に居候させる訳にもいかず、近所に住まわせている。その場所で、かなりの時間を瞬が過ごしていることは言うまでもない。

「連絡を取ってみましょう」
「うん。お願いしていい?」

 龍馬に持たせた携帯電話に瞬は連絡を入れてみた。

『瞬?!』
「今、どこにいるんだ?」
『いや、その……ちょっとな!』

 携帯電話を通じて聞こえてくる音には明らかに電車の音が聞こえてくる。おそらく電車でどこかに出掛けていたのだろう。最近教えたばかりの交通手段を、既に自力で使うようになったのかと瞬は純粋に感心していた。

『お前さんの誕生日を忘れてたわけじゃないんだ。遅れるかもしれんが、必ず行く!』
「……分かったから、落ち着いて、ちゃんと帰ってこい。迷ってる訳ではないんだろう?」
『ああ!何とか戻れそうだ!』
「何かあれば連絡しろ。すぐ迎えに行く」
『遅れてすまんな、瞬。誕生日おめでとう』
「ありがとう。じゃあ、切るぞ」

 瞬は電源ボタンを押す。通話は切れ、画面は元に戻る。
 龍馬は瞬の誕生日を知っている。何故ならゆきが教えているし、今日もそう言って龍馬を呼んだ筈だ。だが、誕生日が特別なものだというのはこちらの世界の風習であり、あちらにはないものだ。それなのに龍馬は瞬の誕生日を忘れず、『おめでとう』と言ってくれたのだ。物よりも気持ちが嬉しいのだから、その言葉があれば瞬は満足だ。
 しかし、ゆきを心配させているのはよろしくない。戻ってきたら注意しなければ。

「龍馬は遅れるそうです。先に始めましょう」
「いいの?」
「どれくらいかかるか分かりませんから。待たせるわけにはいかないでしょう」
「そう……」

 ゆきは残念そうに目を伏せたが、瞬の言葉に納得したようで、「瞬兄、行こう?」と手を引いてきた。瞬もそれに逆らわず、家族が待っている部屋に入った。






「龍馬さん、本当に遅いね」
「……とりあえず、ラップをして置いておきましょう。来たら出してやればいいでしょう」
「うん……」

 まさか、本当に帰れなくなったのか?と瞬は少し焦る。最悪帰れなくなっても、こちらの世界には警察がいるし、また何かあったとしても龍馬ならば何とかなる筈だ。心配する必要はないと思いながらも、苛立ちにも似た焦りを感じていた。
 試しに何度かメールをしてみても、“大丈夫だ!”という返信だけしかない。無事なのは分かるが、ちゃんと帰ってこれるのか、瞬は益々不安になった。
 駅までいっそ迎えに行こうか、だが入れ違いになることも考えると、この場を離れない方が得策だろうが……などと、瞬が思っていると、玄関のインターホンが鳴った。

「龍馬さんかな?」
「出ます」

 誰かが動く前に、瞬は真っ先に玄関まで向かう。開けると、ゆきの予想した通り、龍馬がいた。

「悪いな。遅くなった」
「それは見れば分かるが……」

 外は寒かったのだろう、龍馬の鼻の頭は少し赤くなっていた。よく見ればこの気温には少々薄着なようにも見える。

「早く入れ。それと、今度からはもう少し厚着をして出掛けろ」
「ん?それほど寒かったとは思わなかったが……こっちは“えあこん”とやらがついてるおかげで至るところで、あったかいからな」
「その分、温度差が出来る。体温調節がうまくいかなくなって、風邪をひくことも多い。実際、駅からの道のりは寒かっただろう?」
「確かに瞬の言った通りだったな。今度からは気を付ける。……と、瞬に用事があったんだ」

 瞬が「用事?」と聞き返す間に、龍馬はがさがさと持っていた鞄の中から、紙の袋を出し、瞬に手渡す。

「誕生日ぷれぜんとというやつだ。貰ってくれ」
「お前はこれを買いに行っていたのか?」
「ああ。瞬にバレたらいかんから、だから場所を連絡できんかったんだ」

 袋は大きくはなく、また重くもない。龍馬が現在持っている現金は多くはないので、高い物ではないのは確かだが、中身が何かは瞬には全く見当がてかない。

「開けてみてくれ」

 人前で開けるのもまた失礼なことかと瞬が思っていたところ、贈り物をくれた張本人がそう言うので、瞬は紙を破かないように綺麗に開封した。

「!これは……」
「前、瞬に貰ったすとらっぷとやらと同じ物を買ってきたんだ。綺麗な色だろう?」

 瞬が龍馬に渡した物よりも、それは淡い水色をしていた。瞬よりも龍馬を思わせるその色は、以前よりは眩しく感じないが、瞬には不釣り合いな色のようにも思う。

「俺が貰ったあの色のやつも瞬らしいが、もっと淡い色も似合う気がしてな。うん、やっぱり似合ってる」

 だが、龍馬はこれを似合うと言う。瞬よりも龍馬らしい色を、似合うと言っている。
 それは瞬の心を温かくした。

「……ありがとう」
「礼を言われるようなことじゃない。俺の時は瞬から貰ったんだからな。それにお揃いっていうのもいいだろう?」

 恋人同士とは言え、男同士がお揃いを持っているのは世間的に見ると異質なことであろうことを瞬も知っている。
 だが、それを悪くないと思う自分がいるのも確かだった。

「大事にする」
「ああ。瞬、生まれてきてくれて、ありがとな」

 同じように祝ってくれる人は、今までもいたが、今年はどの年よりも嬉しい誕生日になった。




































あとがき
 当社比ですっごい甘いです(^q^)私のキャパの限界がこのあたりですw
 互いにイメージカラーの持ち物を持ってたら可愛いなって思いました。どっちも青だから、パッと見たら本当にお揃いっていう。男同士だからどうかなって思いましたが、龍馬さんだからいいかなって思ったw
 え?二人とも偽物だって?……知ってる!()瞬兄ってここまで龍馬さんに優しくなるのか書いてる本人も疑問に思いましたもん(
 いや、惚れたらこれぐらい……!

 ここまで読んで下さってありがとうございます。















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