いずれ見る夢



























 桜の幹を植え替えるのを手伝う相手に真っ先に瞬が指名したのは龍馬だった。
 状況から考えて、瞬が頼るのは対の龍馬であることは全く不思議なことではない。瞬自身が誰と仲が良いということもなく、龍馬は瞬と背格好が似ているし、運ぶには都合がいい。
 だが、瞬が龍馬を信頼して、頼ってくれたようで、龍馬は嬉しく思った。

「桜、立派に育つといいな!」
「…………」

 瞬は特に答えない。ちらりと龍馬を見て、また桜に目を移した。その態度は拒絶に近いものがあるが、桜を見ているならば、龍馬と同じ感じ方をしているのだと、龍馬は楽観的に捉える。

「また皆で育った桜を見れたらいいな」
「それは無理だろう。ゆき達は元の世界へ帰る」
「……お前はまたつれんことを……」
「事実だ」

 確かに瞬の言う通りだ。ゆき達は元の世界へ帰る。その為に、今、頑張っているのだから。
 だが、瞬の言い方には龍馬自身、引っ掛かることがあった。

「“お前”はどうするんだ?一緒に帰るんじゃないのか?」

 平和な世界に、瞬も共に帰る筈だ。龍馬はそれが勿論、寂しいと感じるが、それ以上に、瞬がまるで共に帰らないような言い方をするのが切なくて仕方なかった。
 どう生きるかは本人の自由だ。現に、龍馬こそ明日にでも命を散らしても不思議ではないような生き方をしているのだし、それを止めろと言われても、決して止めるつもりはない。だが、それは死に向かって突き進んでいく為ではなく、生きる希望を持っていることに変わりはない。
 瞬の、役目を全うする事と自身の消滅を一緒に考えている節は、龍馬には納得出来ないし、間違っていると思う。ゆきを守ることを止めろだなんて、龍馬は言わない。それが瞬の生き方ならば。だが、瞬にだって、自身の生を望むことは許されているのに、それを全く見ようとしないのは、龍馬には悲しいことだった。
 別れは寂しい。だが、それ以上に瞬の未来を願わずにはいられない。もっと瞬自身の未来を願ってほしかった。
 しかし、龍馬はその瞬の意思でさえ変えることは出来ないと、龍馬自身が分かっていた。その役目を担うのはゆきであり、そしてゆきは必ずそれを成し遂げるだろうことを。
 だから、龍馬が瞬の為に出来ることなど、あまりに少ない。この、どこか寂しげな青年を救うには、龍馬が出来ることなど、誰もが出来るようなことばかりだ。

「燭龍を倒したら、帰る前にお嬢達とまたこの桜を見よう。もしかしたら、少しは咲いてるかもしれんしな。瞬、お前も勿論見るんだろ?」
「何を馬鹿なことを……そんなことをしている暇があるとは到底思えない。いつでも元の世界に戻れるとは限らないだろう」
「白龍だって、頼めばこれくらいのことは聞いてくれるだろうさ。皆でまた同じ桜を見よう、瞬」

 こんな、誰もが言える、叶えられる保障もない絵空事を言うしか龍馬には出来ない。それを実現出来るか否かは龍馬の言動ではどうしようもないことで、龍馬に出来るのは精々、他の八葉にも出来るような手助けのみだ。
 だが、瞬がそれを信じられるまで、きっと龍馬は何度でも口にしてしまうのだろう。いつか別れるその時に向かって、何度でも、口にするのだろう。




































あとがき
 アーネストの桜イベントは龍瞬好きにはそれなりに萌えたと思います。私の中でチナミルートとアーネストの桜イベントは確実に入れたいところです、私の中の公式で()
 龍馬さんが瞬兄のためを思って説く未来は、龍馬さんはいないわけです。だって生きていく世界が違うから。そんな切ない気持ちを抱えてることに、本当の意味で瞬兄が気付くのは燭龍戦後が良いです。精神的余裕が出来てからが良い。
 なんか、プラスにすごい近い気がしますが、私はこれくらいのが割と好きだったりします。ベタベタするよりも、精神的支えあいが好きです。読むのも書くのも。あ、妄想は別です☆

 ここまで読んで下さってありがとうございます。















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