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きっかけ

















 ゆきちゃんが元の世界に戻って、徐々に色褪せていく日常。特に見たいものもなく、興味もないのだから良いのだけれど。

「桜智」

 そう呼ばれて、振り返るとそこには小松さんがいた。ここは小松さんの邸なのだから居て当然なのだけれど。
 家老の彼と鬼である私が会うだなんて不思議なことだとぼんやりとした思考で思う。対である小松さんと会うのは何も今回だけではなく、度々呼び出されては仕事の依頼をされる。新しい国作りに役立てることがあるなら、勿論私も協力したい。ゆきちゃんが残してくれた世界を後世に伝えられるような国に。
 私と小松さんの関係は仕事だけ、の筈なのだけれど。

「……食べないの?君、干菓子が好きなんでしょう?」
「あぁ…うん。食べて…いいのかい?」
「いいよ。君の為に用意したものだから。せっかく用意してあげた物に手を付けられないのも残念だからね」

 私の為に干菓子を用意してくれる小松さん。私自身が知らない食べ物の好みも知っていて、会う度に色々な干菓子を用意してくれる。

 それだけではなくて、私のことについてもよく尋ねてくる。「最近どう?」とか「ちゃんとご飯は食べてるの?」とか「何か不自由はない?」とか。
 私はそれに対して、まともな返答ができない。私自身のことなど、私も知らない。生に対する執着がないわけではないのだけれど、自分には執着も、愛着も湧かない。だからまともな返答などできない。自分のことだけれど、覚えていないことが多すぎる。その度に小松さんは、「他のことは驚くくらい覚えてるくせに君は……」と苦い顔をする。その理由は分からない。
 理由は分からないけれど、苦い顔をさせたいわけではないから、最近は自分の身の回りのことを覚えるようにしている。そう、せめてちゃんとご飯を食べたかどうかくらいは。

「どう?美味しい?」
「……うん。美味しいと思うよ」

 味に興味がないので、美味しいかどうかというのはよく分からない。けれど、つい次の物に手を伸ばそうかと思うのだから、たぶん美味しいのだと思う。
 何故、小松さんがこんなに私に気を遣ってくれるのか、やはり分からない。薩摩藩家老に気を遣ってもらうなど、私のような身分の者には有り得ないことだ。いくら、対の存在と言えども。

(けれど、小松さんだけは……)

 ゆきちゃんがいなくなってから何を見ても、何をしても、味気なかった。世界が色褪せて見えた。けれど、小松さんだけは輝いて見えていることに最近気が付いた。
 最初は彼の能力や合わせもった人柄がそうさせるのだと思った。小松さんは仕事においても優秀で、誰にでも気を配れる人で……この国にとって必要な存在。だから輝いて見えるのだと思った。けれど、同じように優秀で、良い人柄の人はいる筈なのに、小松さん以外は皆同じ。視界に止まることさえない。
 小松さんを前にする度、何故、と問答してみる。理由が分からない。そしてその理由を知りたかった。

「桜智、いつもよりぼーっとしてるみたいだけど、平気?君に倒れられても私では運ぶことはできないよ」

 傍目には心配している素振りは見せていないけれど、言葉の端々で心配してくれていることが分かる。大丈夫だと返事をするべきなのは分かっているけれど、声が出ない。頭に貼り付いた疑問が思考を鈍らせる。何故。何故。

「……悩みでもあるの?解決してあげられることかどうかは分からないけれど、話ぐらいは聞いてあげるよ」

 小松さんの声色が優しく響く。何だか、嬉しい、と思った。嬉しいだなんて久々に思った気がする。ゆきちゃんといた時は頻繁に湧き上がった感情だったけれど、そもそも、そんな感情があることも知らなかった。教えてくれたのはゆきちゃん。でも今与えてくれているのは……。

「……小松さん」
「どうしたの?桜智」
「小松さん……っ」

 小松さんが心配そうに私に寄ってくる。私は小松さんの袖の裾を掴み、小松さんをじっと見る。困惑したような表情だけれど、嫌悪を示さない小松さんはやはり優しい。失いたくない。
 こんな感情を抱く理由が分からない。対として短くはない時を過ごし、他の八葉とは切れてしまった縁は対である小松さんだけは残っている。この世でたった一人、私と現を繋ぐ人。対だからか、何なのかは分からないけれど。つながりを失うのが急に恐ろしく思えた。

「……何?泣きそうな顔して……私はどこにもいかないよ」

 そう言って、優しい指が私の手に触れる。ずっと一人で平気だった筈の我が身が、こんなにも他人を求めていることが信じられない。やはりその理由は分からない。
 けれど、今は小松さんのぬくもりに甘えていたい。手を伸ばし、小松さんを掻き抱く。困惑したような声で小松さんは私の名を呼んだけれど、決して抵抗はしなかった。





































あとがき
 桜智が小松さん特別だって気付く話。小松さんは既に桜智に長い片思い中でしたwww
 めっちゃ短い上に何気なく書いたやつですので・・・お恥ずかしい限りです。はい。
 一応誰かとゆきちゃんがED迎えたんだと思います。誰も皆思ってると思いますが、桜智→ゆきちゃんはデフォですよねw なので最初の頃の小松さんは報われないこと報われないこと・・・ww
 小松さんが桜智好きだなって思った話も書きたいですが・・・まあ、それはいつになるやら(遠い目)

 拍手でメッセージ下さった方のご期待に添えられた気は全くしないんですが、も、申し訳ないですorz
 駄文で申し訳ないですが、これからも良ければ我がサイトで暇つぶしして下さい。

 では、ここまで読んで下さった方に、お礼をさせていただきます。ありがとうございます!








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