君は風
衣笠は新しく来たClassXの担任になる女性をまじまじと見た。
(おや・・・?)
彼女、南悠里は衣笠が見てきた人と、どこかが違った。何が違うのか最初は分からなかったが、いつも通り、初対面の人に取る挨拶を交わした。
(ああ、なるほど・・・)
衣笠を見て大多数の人間が起こることが、悠里には起こっていなかった。誰にでも好かれる衣笠。殆どの人が周りが見えなくなるほどのそれは、衣笠が意識してなるべくそのオーラを出さないようにしているものの、どうしても出てしまう。
しかし、悠里はそれに気付いていなかった。
それを衣笠は特に気に留めずにいた。多分緊張で周りが見えていないのだろうと、そう思った。それほどに衣笠にとって悠里の第一印象は普通の人と変わらないものだった。
だが、しばらく経っても悠里は衣笠に惹かれることはなかった。誰にでも取るような態度で接していた。それどころか、今まで誰も成しえなかったClassXの担任として生徒に受け入れられ始めている。
(どういうことなんでしょうねぇ・・・)
普段から周りの様子をよく見ている衣笠にとっても、それは不思議なことであった。悠里は裏表のない人だ。故意に平等に接しているようにも見えない。だから尚更分からなかった。
分からないから知りたくなる。悠里のその不思議さの理由を知りたいと衣笠は思った。それはどこか解けそうで解けない数学の問題によく似ていた。
それから衣笠は悠里のことを特別に意識して観察した。誰にも気付かれぬように、でもそれでいて決して見逃すことのないようにしっかりと悠里のことを見た。
そうすると、いくつか見えなかったものが見えてきた。
悠里はいつも一生懸命で真っ直ぐだ。それは若さからくるもののようで、しかしそうではない。生徒たちでさえ持っていない、悠里自身の性質なのだ。人は誰でも特有の性質がある。あの真っ直ぐさはその特有の性質であり、これは悠里しか持っていないものだ。そこにB6達も惹かれている。
いや、B6だけではない。T6達も惹かれてきている。
悠里の感情表現はストレートだ。それに彼女の真っ直ぐさが加わって、その感情の一つ一つが心に響くのだ。B6にとってそれは心地の良いものであり、T6にとっても特別なものとなってきている。見ているだけで人に何らかの感情を抱かせる何かを悠里は持っている。それらを受けて感じる感情は人それぞれのようだが。
(僕は・・・どう思っているんでしょうね・・・)
例えば二階堂のようにあの笑顔を見ていたい、力になりたいと思う者もいれば、葛城のように熱い感情を抱いているのに、どう表現していいか分からず持て余している者もいる。各々が様々な感情のカタチを持っている。
ならば衣笠自身はどう思っているのだろう。
(あえて言うなら・・・不思議な人・・・ですかね)
衣笠にとって悠里は分からない人だ。考えが分からないとかそういうことではなく、悠里が衣笠に惹かれない理由やその独特の性質を持つ所以。これだけ見ていても分からない、不思議な人。
誰にでも平等に見るその瞳で悠里は衣笠を見ている。そのような瞳で見る人を衣笠は知らない。誰にでも好かれる衣笠にとって、悠里のように見てくる人は初めてだ。
B6やClassXの生徒たちに注がれている熱く、それでいて慈愛のこもった眼差しを、衣笠には向けられない。それだけは分かることだ。理由は分からないが、それは確信できる。
(一度くらいあの瞳で見つめられてみたいですね)
こんな風に思うことも生まれて初めてだった。何かを欲しいと思うこと自体が衣笠にはない。どんなものでも、例えば愛といったお金で買えないものでも、どんなに高価なものでも、欲しいと思う前に全て衣笠の手中にあった。今まで望むほどに欲しいものなどなかった。
それなのに、悠里だけは衣笠の手中には落ちてこなかったのだ。
だからなのだろう、こんなに得てみたいと思うのは。悠里のその瞳に何の価値があるのか分からないし、得たからと言ってどうなるわけでもないもののように思えるのだけれど、欲しいと思う。
こんな感情を抱くことがあるなんて知らなかった。自分でも予測できないことがあるのだと感心してしまう。
今はただ、そよそよと吹く風のようなものが、いつかB6やT6のようにまるで春の風のように強く自分の心も心揺らすこともあるのだろうか、と衣笠は思った。
あとがき
ひいいい、文才がないよおおおお。自分の文才の無さに改めてびっくりです。いや、知ってますけどね。結構前から知ってますけどね。まずボキャブラがないですしね。
まあ、自分の衣笠先生を出せたから満足ですよ。文章としての綺麗さというより、妄想を消化したって意味で。
多分、次のVitaminXの更新は間違いなくビタエボの感想になると思います。なんていうか衣笠EDの自分なりの語りが書きたいです。あと瞬君への愛とか瞬君への萌えとか・・・(私のポケットは瞬君でだいたい埋め尽くされてる) 衣笠先生は総合的に愛してます。キャラとしても、書き手としても。瞬君、書ける気がしないんです。愛しすぎて。
今回のSSはずっと思い描いていた衣笠先生の悠里先生への気持ちへの導入です。そして導入からの間は長いはずです。衣笠先生は基本的に観察してる方が好きだと思うので。悠里先生が誰のものにもならない感じだったら多分動き出すんですよ。そんなイメージです、衣笠先生。
駄文ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
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