番外編1













「・・・千尋、やはり君の仕事量はおかしい」

 そう忍人に言われ、千尋は読んでいた報告書から視線を上げ、忍人と目線を合わせる。やはり読みながら報告を聞くのは失礼だったのだろうか。忍人ならば分かってくれるだろうし、いいだろうと思っていたが、それが良くなかったのだろうかと思案する。

「君が忙しいのは知っている。俺の報告も、読みながら聞くのはどうかと思うが、それも仕方ないと心得ている」

  分かっているなら何を言うのだろう。千尋は尚更忍人が何を言おうとしているのか分からなかった。

「朝起きて、君はまず何をする?」
「とりあえず身支度をします」
「次は?」
「朝食を食べます」
「報告書を読みながらだろう」
「だって間に合いませんから」

  食べながら何かをするのは確かに行儀が悪いが、仕事中は書き物の方に時間を回したい。読む物は出来る限り早く済ませて、別のことをしたい。

「そしてその後休む間もなく仕事をして、報告を聞いて、昼食も報告書に目を通しながら食べて、また仕事をして、夕食も同じで、その後も仕事をしている」
「・・・・・・・・・」
「働き過ぎだろう」

  そんなこと、仕事人間の忍人に言われたくない。

「君の休む暇はどこにある?」
「・・・その言葉、そっくりそのままお返しします」

  忍人も似たようなものだと思う。どんなに仕事を頼んでも忍人は期日までに確実に済ませてくるし、そんな中でも決して千尋が頼む宮内の視察はやってくる。一体どこにそんな時間が詰まっているんだと思うくらいに。

「俺は日が暮れたら仕事はしていない」
「でも鍛錬はしてますよね」
「体力作りだ。俺ももう若くはない」
「それに仕事を減らしてだなんて忍人さんから聞いたことがありません」
「任された以上責任がある。それに君が意図的に減らしているのも知っている」
「・・・・・・」
「仕事熱心なこと自体は良いことだが、君も少しは他人に任せたらどうだ?」

  忍人が言うことは尤もだ。それを千尋は自覚している。分かっているから、否定はしない。だが、仕事をしていないと落ち着かないのだ。どうしようもない不安に襲われる。

「・・・君がそういう風にする一端は俺にあるのも分かっている。だが、俺も君が大事なんだ。それは分かってほしい」
「忍人さん・・・」
「君を失うようなことがあれば、それこそ俺は生きていけない。君がいるから、今俺はここにいるのだから」

  忍人の生き甲斐を奪ったのは千尋だ。しかし新しい生き甲斐を生んだのも千尋で、忍人が生きているのは千尋の為だ。ならば千尋も忍人の為に自分を大事にするべきなのかもしれない。

「・・・分かりました。ちゃんと休憩を取ります。信頼出来る人に任せますよ」
「ありがとう。では、その人事のことだが・・・」
「今決めるんですか?!」
「当たり前だ。後回しにしていたら君がいつ休めるか知れない。出来る限り早い方がいい」
「あ、あの、私まだ全く考えてなくて・・・」
「俺の方である程度人事を挙げてきた。意見に偏りがあるといけないから、柊や風早の意見も聞いてある。その中から君が適任と思う人を決めてくれたらいい」
「・・・はい・・・」

 忍人のこういうところは相変わらずだ。そんなところも引っ括めて好きなのだが、一筋縄ではいかない人を愛してしまったものだと、ほんの少しだけ溜め息を吐きたい気分になった。

「・・・時間がなければ、君と共に過ごすことも出来ないだろう」
「え・・・」
「君の身が心配なのは確かにある。俺が今ここに居るのは君がいるからだ。だが、俺は君の伴侶だろう。あまりに君に触れる機会が少なすぎる」
「え・・・え?!」

 今度こそ千尋は言葉を詰まらせた。頬が熱くなるのを感じ、頭の中で考えてたことが全部とんでしまった。

「あ、あの、触れたいんですか?忍人さん」
「当たり前だろう。俺はまだ枯れてはいないし、君は十分魅力的だ」

 真顔で言われるから尚更困る。

「つまり・・・忍人さんはもっと私との時間が欲しいってことですか?」
「・・・そういうことだ」

 今度は忍人が照れ臭そうに指を口元まで持っていく。
 忍人が望んでくれていることが嬉しくて、千尋は思わず声を洩らして笑ってしまった。

「ふふっ」
「何かおかしいのか?」
「だって・・・こんな話が出来るだなんて思ってなくて・・・」
「・・・」
「あ、変な意味じゃないですよ?こんな日が来るだなんて思わなかったから・・・」
「・・・そうだな」

 こんな話が出来るようになるまで、あまりに長かった。だからこそ、この日常がかけがえのないものなのだ。

「・・・じゃあ今夜部屋で待ってますから、一緒に夕御飯を食べましょう?その後、一緒に話すんです」
「ああ・・・お言葉に甘えるとしよう」



































あとがき
 当社比で甘さ120%くらいにはなってます。甘いですよね!だがこれ以上は甘いの書けないよ!
 忍人さんは忠誠を8年前に置いてきてるので、あまり世継ぎとかは考えてないです。国の為というより千尋ちゃんの為に今は生きてるので。
 番外編をぼちぼち足して、足りない部分を補いたいですが、番外編は気分で書くので、いつ更新されるか分からないです(^_^;)
 ここまで読んで下さってありがとうございます!












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