Sweet more sweet...
























「祟くん、明日、お出かけしない?」
「え?どこに?」
「お買い物。……駄目?」
「いいけど……」

 祟は目を泳がせる。勿論、ゆきと出掛けるのは嬉しいことだが、大概は保護者同伴の為、それならば家で二人きりの方が嬉しかったりする。

「……いや?」

 悲しそうに見詰めてくるゆき。これも祟にだけしてくれれば、祟も焦ったりするのだが、悲しいかな、ゆきがこういった表情をするのは祟に対してだけではない。なので、慌てず、けれど保護者同伴が不満であることを口にする。

「瞬兄や都姉と、休日まで一緒にいるのは嫌だよ」
「大丈夫だよ。二人には何も伝えてないから」
「え?!」

 おっとりと微笑むゆきに対し、祟は今度こそ大層驚いた。悲しいことに常にデートの予定はついうっかりゆきが洩らしてしまうので邪魔が入る。時にゆきに悪意があるのではないかと思う程に。勿論、ゆきに悪意はなく、楽しみにしていることをつい人に言ってしまいたくなる、そういう心境で洩らしてしまうだけなのだが。
 口止めも何度かしたが、この鈍感少女には理解出来なかったらしく、祟は半ば瞬や都と離れて暮らすまで二人きりで外出デートを諦めていたところだった。
 そんなゆきが伝えていないという事実に祟はとても驚いた。

「祟くんと二人がいいの。駄目?」
「駄目じゃない!駄目じゃないよ、お姉ちゃん!」

 神様はまだ僕のことを見放してなかった!

 祟は心の中でそう感謝した。

「ありがとう。祟くんとお出かけは久しぶりだから嬉しい」
「とりあえず、近所の公園で待ち合わせにしよう。いい?誰にも言っちゃ駄目だからね?」
「うん。私も二人がいいから、誰にも言わないよ」

 やっと春が来た、と祟は思った。正確に言えば、祟とゆきは付き合っているのだから、この表現はおかしいのだが、やっと恋人らしいことが出来るという意味では間違いなく春である。
 物事は大抵予定通りに進まないものなのだが、今回は全く問題なく、事が進んでいた。

「お待たせ、祟くん」
「まぁ、待つのは仕方ないけどね……」

 時間差で出てくるように指示したのは祟だ。待つのは嫌いだが、仕方ない。

「ごめんね……もっと早く用意出来たら良かったんだけど……」

 確かにゆきは素早い準備は苦手なようで、祟にとってはもどかしい。が、ゆきの格好を見ればそれも仕方ないと思う。
 いつもと違い、髪留めも花モチーフの物になっているし、ふわふわとしたスカートのワンピースはゆきによく似合っている。自分の為にオシャレしてくれたのであれば、それも悪くないと思う。

「ううん。気にしてないよ。それより、今日の服は可愛いね。よく似合ってるよ」

 使い古された常套句ではあるが、ゆきの外見は特段可愛いし、服だって、他の誰よりも似合うと祟は思う。

「あ、ありがとう……」

 ぽぽぽとゆきは頬を染める。時に見せるこういう表情は大変貴重で、この表情だけは誰にも見せたくないものだ。

「祟くんも、よく似合ってるよ。今日のズボンは新しいのだね」
「うん。新しいのだって、よく分かったね」
「分かるよ。いつも一緒にいるから」

 行こう、とゆきが手を差し出す。それを祟が握り返す。改めて、今日はデートらしいデートが出来るのだと祟は実感した。
 近所のショッピングモールまで歩き、それから様々な場所を見て回った。一緒にファーストフードを食べたり、服を見て回ったり……だが、ゆきが買い物に行きたいと言った真意は分からないままだった。

「ねぇ、お姉ちゃん。聞きたいことがあるんだけど」
「なあに?」
「今日はどうして買い物に来たの?何か欲しい物でもあったんじゃない?」
「うん……あのね…………」

 ゆきはそう言って、恥ずかしそうに口ごもる。祟はやはりその理由が分からず、首を傾げた。

「あのね………お揃いの物が欲しいの」
「お揃い?……ペアルックでもしたかったの?」
「それもいいかもしれないけど……ストラップとか小物でいいの。何か同じ物が欲しいなって……」
「ああ。そういうのね」

 ゆきが恥ずかしがるので、てっきり恥ずかしいようなお揃いがしたいのだと祟は思っていたが、ゆきがしたいのはあくまで細やかなものらしい。

「僕は構わないよ、お揃い」

 寧ろ祟はゆきが自分のものだと見せ付けてやりたいので、そういったことは大歓迎である。本来ならば指輪がいいのかもしれないが、生憎祟には立派な物を買うだけの予算はなく、指輪等を送ったことはなかった。

「良かった……」

 ゆきはホッとしたように溜め息をついた。

「断られると思った?」

 そうゆきが考えていたなら、大変心外な話である。祟も、一般的な男子と同じく、恋人の喜ぶことはしたいと考えているのだから。ただし、祟は一般的な男子と違うので、そこには自己犠牲という精神というよりも打算が多く含まれているが。
 祟が不機嫌そうにしたことがゆきにも伝わったのか、慌てたようにゆきは弁明した。

「違うの。子どもみたいで嫌かなって……祟くんの嫌がることはしたくなくて……」

 やはり断ると思っていたのではないか、と祟は心の中だけで毒づく。正確に言えば断らないが、嫌がると考えていたのだが。
 確かにゆきが言う通り、大人の恋人同士であれば同じ物が欲しいとか、同じ物を身に付けたいとか、そういったことを思うことは少ないのかもしれない。だが、祟は子どもで構わないと、そう思っている。子どもらしい独占欲を満たすには子どもらしくするに限るのだから。

「仕方ないな……怒らないでいてあげるから、とりあえず見に行こうよ」
「うん!」
「それで、何にする?ストラップでいいの?」
「それは……考えていなくて……」

 それから改めて色々見て回った結果、やはり色違いのストラップになった。ペアリングも考えたが、それは祟から送りたいので、敢えて提案はしなかった。

「そういえば、どうしてお揃いが良かったの?」
「うん……祟くんとは学校に行ってる間とかは離れちゃうから、寂しくないように。これでいつでも一緒にいられる気がするの」

 そう嬉しそうに微笑んだゆきに、祟がときめいたのは言うまでもない。



































あとがき
普通の甘い祟ゆきも書いてみたかったのですw
基本吹っ飛んだ設定ですが、やってることは意外にピュアなのがうちの祟ゆきです。割と可愛くイチャコラしてます。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございます!






















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