Tears
あかねはとても後悔していた。
どうしてあの時、ちゃんと避けることが出来なかったんだろうと・・・。
それは数刻前のこと、穢れを祓いに行っていたあかね達だったが、現れた怨霊は予想していたものより遥かに強く、いつもより苦戦していた。
そのせいか、あかねはつい集中力を切らせてしまい、気付かなかったのだ。
怨霊の攻撃が自分に向かってきていることを・・・。
「神子殿!!」
気付いた時にはもう避ける暇など無く、あかねは次に来るであろう痛みに身構えた。
だが、その痛みがくることはなかった。
「頼久さんっ?!」
頼久があかねをかばったのだ。
次の瞬間には怨霊は頼久の剣で貫かれていた。
「あかね!早く封印しろ!!」
「う、うんっ」
あかねは怨霊を封印した。しかし・・・。
「頼久さん!大丈夫ですか?!」
詩紋の声ではっとしたあかね。頼久を見ると、膝を付いて苦しそうにしていた。肩に深い傷が出来ている。
あかねはそれを見て、青ざめる。
「おい、頼久!大丈夫か?!」
「ああ・・・それより、神子殿に怪我は・・・」
「わ、私は・・・大丈夫・・・」
「・・・良かった・・・」
頼久はその場に倒れこんだ。あかねと天真が慌てて駆け寄る。
「頼久さん!しっかりして!!」
「詩紋!!頼久運ぶから手伝え!!」
「う、うん!」
その間のことは、あかねはよく覚えていない。とにかく早く運ばなければと思っていたのだ。
(どうしよう・・・頼久さんが死んじゃったら・・・)
どうやら今晩が峠らしい。
夜になっても、あかねは頼久の近くを離れようとしなかった。
「あかね・・・もう遅いんだから帰って休め・・・」
「嫌・・・看てる・・・」
「あかね・・・」
「だって私のせいで頼久さんが・・・!」
「あれはお前のせいじゃない・・・気にするなよ」
「でも・・・!」
「お前のせいじゃない。・・・仕方ねえな、あんまり無理するなよ。つらかったら。代わってもらえ」
「うん」
でもあかねは代わる気なんてなかった。自分だけ休むことなんて出来ない。
(あの時、私がもっとしっかりしていれば・・・)
じっと頼久の顔を見ているあかね。端正な顔に、今は血の気がない。それが更にあかねを悲しくさせた。
(もっとしっかりしていたら・・・もっとしっかりした神子だったら・・・こんなことにはならなかった・・・私が龍神の神子なせいで・・・)
あかねは自分を責めずにはいられなかった。涙は自然と溢れてきて、声をあげて泣きたくなる。
どれぐらい泣いていたのだろうか、だんだん辺りが明るくなってきた頃、頼久が目を覚ました。
「・・・神子・・・殿・・・?」
「よ、頼久さん・・・」
あかねはぼろぼろ涙を零していた。嬉しい反面、申し訳ないという気持ちだった。
「・・・何かあったのですか?」
「何かあったじゃないですよ!!頼久さん、倒れて、一晩中意識が戻らなくて・・・!!」
「申し訳ありません、ご心配をおかけして・・・」
「謝るのは、私の方ですよ!!私がぼおっとしてたから、こんなことになったんですよ!!私のせいでこんなことになったのに、何で頼久さんは謝るんですか?!」
「神子殿・・・あなたのせいじゃありません。私が不甲斐無かったのです」
「どうして皆、そう言うの?!頼久さんだって、怪我するの嫌に決まってるのに、私なんかを守って、怪我して・・・!!」
「神子殿はこの今日を守る、大切なお方。神子殿に何かあってはならないのです」
「私は普通の高校生なんだもん!特別なところなんて何もないの!!龍神の神子なんて、そんなたいそうなものじゃなかったのに・・・!!私より、きっと、ずっと神子に向いてる人なんかいっぱいいるのに!!」
「神子殿」
「もう嫌だよ!!私のせいで誰かが困ったり、傷付くなんて・・・!!」
あかねは声をあげて泣き出した。まるで子どものように、わんわんと泣いた。
頼久はどうしたらいいか分からず、じっとあかねを見ていた。
「泣かないで下さい、どうか・・・」
「ひっく・・・そんなの・・・無理だもんっ!!」
頼久は重い体を起こし、あかねの頬に流れる涙を指で拭った。
「神子殿・・・いや、あかね殿・・・私はあなたが龍神の神子で良かったと思っています」
「ぐすっ・・・どうして?」
「あなたはとても優しいお方・・・私のようなものにまで涙を流して下さる。そんなあなたをお守り出来る事、私にとってとても誇らしいことです」
「でも・・・怨霊が襲ってきても・・・何も出来ないのに・・・」
「あかね殿は怨霊を封印出来ます。あかね殿だけが出来ることです。だからどうか・・・ご自分より向いている者がいるなどおっしゃらないで下さい」
あかねは声をあげて泣くことは止めたが、涙は止まらなかった。
これは嬉しい涙なのだとあかねは思う。頼久はあかねが龍神の神子で良かったと言ってくれた。そのことがたまらなく嬉しかったのだ。
「泣かないで下さい・・・私は友雅殿のように上手に慰める方法を知らないのです」
でも、それでもあかねには頼久の言いたいことは十分伝わってきた。嘘は吐けない人だと知っているから、信じられる。
返事をする代わりに、あかねは頷いた。何度も何度も頷いた。
頼久もあかねが泣きやむまでずっと涙を拭っていてくれた。
大きくて、剣を扱っているせいか硬かったけれど、優しい手だとあかねは思った。
それは甘く切ない感情に囚われる前触れ・・・。
あとがき
相変わらず意味不明な点が多々ありますが、それは気にしない方向で(汗)
ついでにこの時は「あかね殿」と呼んでいる頼久ですが、普段はまた「神子殿」に戻るんです。
あかねがいいんだってことを主張したかっただけですからね、彼はこの時点であかねラブです。本人無自覚で(笑)
あかねも多分頼久のことを他の人より特別だとは思っています。
ていうか、頼あか、大好きなのに今まであまり置いてなかったり・・・増やします、これから増やします。
漫画の方で頼あかがメインだったらいいなぁとか思ってたり・・・頼みます、水野先生!!!
そして同士がいたら拍手か何かに書き込んで下されば、幸いです。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
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