涙に溶けた台詞で10題  お題こちらから










○どうしてそんなにも僕を愛してくれないの
(そんなに憎いですか、嫌いですか、僕が生まれたのは貴女の所為なのに)(千尋)

風早が褒めてくれる髪は、他人から見れば異形でしかなかった。
気味悪がられるのだって、慣れはしなかったけれど、納得はしていた。自分でさえ美しくは思えなかったから。
姉様や……母様のような美しい黒髪に憧れた。
仕方ないと思った。
私が他人に愛してもらえないのは仕方ない。
龍の声が聞こえないのも、この髪の色と、何より私が駄目な子だからに違いない。
愛されないのは仕方がない。
でも。

こんな私が生まれたのは、紛れもなく貴女のせい。

















○あんたは俺が今まで出逢った女の中で最高の女だ
(だってあんたは一度だってこんな俺に靡かない)(小ゆき)

帯刀は悲しそうに、まるでこの世が終わってしまうかのように、顔を歪める少女を見て、少しだけ胸が痛かった。
悲しむ必要はないというのに。これは自身が望んだこと。そう口にも出していたのに、少女は帯刀のその言葉も知らないかのように悲しむのだ。
少女にはいつも帯刀の言葉が届いていないかのように、透明な少女だった。どこか通り抜けていく少女。経験がないわけではないというのに、少女にはどんな手も通用しなくて、ますますのめり込んでしまったのだ。
しかし、今思えば良かったのかもしれない。帯刀は大切な人を守って散るわけだし、少女もきっと忘れてくれる。誰に対しても情けをかける少女だから、初めこそ悲しむかもしれないけれど、それもいつか消えていく悲しみだ。忘れられる寂しさよりも、いつまでも自分の死に囚われ続ける少女の方が心配であった。
靡く必要はない。悲しむ必要はない。平穏が似合う少女に、この世界はあまりに不釣り合いだ。だから忘れてくれたらいい。
簡単に手折れない花でなくては、帯刀にはつらすぎるから。

















○あたしは貴方の心臓になりたかった
(そうしたら貴方と生きて、貴方と死ねるのに、ね)(沖ゆき)

貴女は貴女でしかなくて、僕は僕でしかない。だからこそ、こうして出会えたのでしょうけど、ふと、思うのです。共に生きたいと。自分から手を放したというのに、とても我が侭な願いです。
少なくとも、僕は僕だったから手を放したのでしょう。
それでも共に生きたいとも願うのです。寂しくて凍えてしまいそうで。でも貴女を想う気持ちが、凍えてしまいそうなそれを溶かしてくれるのです。この愛しく苦しい想いを内に秘めるのは、とても難しいのです。
もし、僕が貴女の心臓になれたら、寂しく想うことはないのでしょうね。それは僕とは言えないのでしょうけど、それでも、もし生まれ変われるなら、共に生きて、共に死にたいと思うのです。そう、まるで君の心臓の如く。
















○ずっと好きだったのに、そういうこと知らないまま、逝ってしまわないで
(狡いよ、結局あたしだけ苦しいよ)(譲望)

(貴女は……どこに居るんですか…?)
譲の見える世界には色彩が感じられなかった。
あれからいくつか季節は過ぎたけれど、それを感じるには大事なものが欠けていた。それは心の一部のようで、正確に言えばそうではないのだけれど。譲には欠かせないものだった。欠いた人生など考えたこともなかった。
確かにそれは譲のものではなく、そうなる予定だってなかった。それでも譲はそれを守るのだと決めていた。守るのが自分の使命なのだと思っていた。
なのにそれは――その人は、譲の前から姿を消した。
譲が守りたかったその人は、世界の為に消えた。そう、譲が生きている世界の為にと消えたのだ。
「……先輩はいつも勝手だ」
そう。譲の気持ちなどいつも知らない。知らないのにいつだって、彼女は譲を守るのだ。優しく、強い彼女だから、譲も守りたいと願うのに、その願いは届かない。まるでそれは必要ないかというように彼女はそれを押し退けてしまう。この手が届くことさえない。
「……ずっと…好きだったのに……っ」
それを知らないまま。彼女はいつもそう。そういうことを知らずに――。
















○君は君の全てを懸けて俺に愛を教えてくれた
(そんな君が誰より愛されたがっていたこと、気付かなくてごめん)(那千)

「那岐」
そう僕を呼ぶ声が鬱陶しかった。あまりも心地よくて、一人で生きていくことが出来なくなりそうな、そんな甘い毒のように思えた。
お節介過ぎるほど、何度も千尋は僕に手を伸ばした。それがとても鬱陶しくて……でも、心地良かったのだ。
僕もあの子も、ずっと一人で生きてきたわけではなかったけれど、それでも寂しかった。そう、寂しかった。
他人に愛されたかった。受け入れてほしかった。
受け入れた先を知るのが怖くて、逃げた僕に千尋は何度も手を差し伸べた。そんな彼女を受け入れた先を知るのはもっと怖くて、僕は逃げ続けた。
でも、僕が愛されたかったのと同じように、千尋だって、愛してほしかっただろう。似ている僕らだから分かる。そう、今なら分かる。
彼女は僕と違って、未来を見続ける力のある人だったけど、決して強いわけじゃない。千尋は普通だ。ただ人より真っ直ぐなだけで。知っていた筈なのに僕は、そのことを忘れていた。
もう、この手は届かないのだろうか。千尋は何度でも伸ばしてくれていたのに僕は――。
「……もう二度と離さないから、千尋……」
だから、早く戻ってきてほしい。今度は僕も愛すから。














○この手は何なら守れるの?
(大切な全てを守れる力が欲しいの、このままじゃ何も残らない)(布千ルート)

このままでは、大切な人を守れない。守る力が欲しい。そう思った。思ってしまった。
次の瞬間には消え逝く命が目の前にあった。
私が願ってしまったから?
そうだとしたら、私ほど罪深い人はいない。
謝るのは簡単で。でも謝ったって皆は戻ってこない。ならば出来ることは一つしかない。国を取り戻し、豊葦原に平穏を。
けれど。
こんなちっぽけな手で一体何が出来るというの?(私は弱い。でも強さを求めては、また失ってしまう。このままじゃ何も残らない。)
















○みんなまで、いなくならないで
(厭だ、ひとりにしないで、せめて一緒に連れて行って)(望美)

「朔!!譲君!!」
死ぬよりも恐ろしいことがあるなんて知らなかった。
「白龍!!」
彼らとの最後の記憶は炎に包まれていて、とても息苦しかった。悪い夢なら醒めてほしいと本気で願った。それは夢ではなく、現実だということは容易に気付いたけれど。
何故戻れないのだろう。何故私達がこんな目に会わねばならないのだろう。帰りたい。あの平和だった、あの頃に帰りたい。そう思ってしまったことは、悲しいけれど、本心だった。
確かに願いは叶った。けれど、望んだのはこんな未来ではない。
(私が望んだのは将臣君がいて、譲君がいて、皆がいて……そんな世界だったのにっ)
ただ皆で一緒にいたかった。将臣がいなくなって、九郎がいなくなって。そして、皆……。

(みんなまで、いなくならないで)

(厭だ、ひとりにしないで、せめて一緒に連れて逝って)

















○よく頑張ったわ、さあ、もうゆっくりお眠りなさい
(あなたが守ったものは、今度はわたしたちが守り抜くわ)

世界はもう覚えてはいないだろう。8つの生を賜って、何度も失い、その度に立ち上がり、人々を破滅から救った少女のことを。そしてそれを支えた仲間達のことを。
何度も傷付いた。何度裏切られ、蔑まれ、夢破れた。少女は何度も世界を救い、世界は何度も少女を裏切った。その世界を少女や仲間は憎まなかった。
その世界は今、その全てを忘れてしまった。少女が代わりに得たものは人間の手に委ねられた世界。
龍神と宝玉は何度でも選ぶ。少女が守った世界が、少女が望む世界である為に。何度でも試練を課す。
救いとなる金の姫はもう現れない。他の少女達の悲しみが彼女の安らぎを守る。世界を救った少女の代わりに、世界は神子とその護り手は犠牲となり、世界は保たれていくのだ。

















○君があんなに望んだ世界が、今、ここにあるよ
(なのに、君だけがいないね)(忍千)

「今年も立派に咲きましたね」
立派、というのはおかしいが、あんな戦禍を二度も体験しておきながら、橿原の桜は美しかった。千尋にはその姿が立派に見えた。
「昨年も収穫、すごくいいみたいで、皆嬉しそうに笑ってるんです。それだけで、あの戦の中、頑張ってきたのが報われる気がします」
忍人さんが願ってたのはこんな世界だったんですよね。と千尋は桜を見上げながら言う。
「来年も、再来年も、きっとこんな春が迎えられたら素敵ですよね。そんな国にしたいって考えてるんです」
千尋が願う世界。平和な世。それは決して夢物語ではない。
「必ず実現できるって信じてるんです。私には頼りになる仲間がたくさんいます。優しい友人がたくさんいます。だから、必ず実現できます」
しっかりとした未来が千尋には見えている。明るい未来だ。皆が笑っている未来。ただ一つ、欠けたピースを除いて。
「……どうして貴方だけがいないんですか、忍人さん」
皆を守りたいだけだった私に、王になるという覚悟をくれたのは忍人さん、貴方だったでしょう。
千尋の視界が歪む。
(この世界を望んだのは私でなく、貴方。なのに――)

(貴方だけがいないね)

















○君だけの幸せを祈れない僕は、君を愛してないのでしょうか
(君と僕で幸せになる方法は何処にもないのかな)(知望)

生と死の狭間で生きている時に生きていると実感するらしい、あの人の幸せそうな瞬間を私は何度も見ているけれど、私はその瞬間を見たくはない。
(死ぬ前にあんなに幸せそうな顔する必要ないじゃない……)
満足気なあの人を見る度に悔しくなる。私はそれを見るのが不幸なの。だから諦めきれず、何度も貴方に会いに行くの。それを知らずに死ぬだなんて身勝手だわ。だから、和議を取り持って、あの人が生きる道を探した。
でも、どうやら彼にはそれはつまらなかったらしい。私のことなんて興味もないみたい。当然と言えば当然なのかもしれない。だって、この時空はあの人の幸せもないし、私のことさえ知らない。
(私は知盛と生きたいだけなのに……)
それさえも許されないのだろうか。嗚呼、こんなにも道が重ならない。


















































あとがき
 お礼言う気があるのかってくらい暗いですね。サーセンwww
 出来ればもっとオチとか被らないようにしたいんですが、こればっかりはどうにもならんので・・・日々精進あるのみですね。

 拍手をポチッてくれた方にも感謝ですし、単純にこれを見て下さった方にも感謝です。






















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