第一話











 朝、目覚めるとすぐに目に入る、破魂刀。千尋は自分でもしつこいと思うぐらいそれを手放せずにいた。
 思えば、八年だ。彼と離れて八年経っているのだ。
 決して短いわけではないはずなのに、千尋にとってこの八年はあっと言う間だった。

 忍人のことを思い出さない日は1日だってなかった。彼の忠義の証であるこの刀を見るたびに、千尋は忍人のことを忘れられなかった。
 否、忘れたくなかったのだ。少女として恋をしたあの時のことを。
 しかし、逆の感情も確かにあった。忍人のことを思い出すたびに胸が痛んだから。好きだからこそ離れたくなかった。だが、好きだからこそ生きていてほしかった。だから自分の選択に後悔はしていないというのに、とても胸が痛かった。
 そのせいか千尋は極端に自分の部屋に戻るのが嫌だった。何も考えない時間もほしくなかった。仕事に没頭することで、千尋は自分自身を守っている。女王として過ごすのであれば、自分の少女だった部分は心の奥に追いやることができる。王ならばそんな感情はいらない。情などに流されない、立派な王として過ごせば過ごすほど、忍人のことを思い出さずにいる自分でいられたのだ。
 国のためを思う女王として過ごす千尋を悪く言う者はいない。それは千尋にとって都合が良かった。

 しかし、反面困ることもあった。夫である人物に愛情を抱けなかったのだ。千尋の心は忍人以外の人物を好きになることを拒否していた。
 それなりに気に入ってはいた。仕事は優秀であったし、千尋の考えを理解してくれる人物でもあった。
 その人物が亡くなったのは1年前のことだ。浮気が千尋の周囲にバレて、自殺した。千尋はその人物のことを気の毒に思った。女王の夫であれば愛人など抱えても問題なかっただろうにと。
 だから今回、狭井君に真面目な人物を選んでくれとだけ言い渡した。
 好きでこそなかったけれども、一時でも肌を重ね合わせた者なのだ。このような悲劇は繰り返したくない。
 せめて子どもが出来ていれば、再婚などしなくても良かっただろうに、二人の間に子は授からなかった。千尋が仕事に没頭し過ぎて、そのような時間を取れなかったり、体調が優れずに生理不順になることも屡あったせいでもあるが。
 誰にも文句を言われない王になったつもりだが、子のことだけは問題があった。那岐が王族だと分かったが、直系ではない以上、世継ぎ問題は深刻だ。

 「・・・そういえば、私も今年で25歳なんだっけ?確かにそろそろ子どもがいないと心配するか」

 何だかおかしくなる。八年前の忍人よりずっと子どもな気がする。八年前を基準にするなら風早と同じ年齢なのだ。あの時の風早は千尋と那岐を養う先生だったではないか。今の自分にはそんな能力はないだろう。自分の体調管理でさえ疎かだというのに。

 「もっとしっかりしなくちゃね」
 「あまりしっかりされるとこっちが寂しいです、千尋」
 「風早。おはよう。いつの間に来たの?」
 「ついさっきです。千尋が25歳だなんて、時の流れは早いものです」
 「最初から聞いてたんだね」

 風早は昔とあまり変わらない。外見もそうなのだが、千尋に対する接し方がだ。少女だった頃と、女王である今は同じように、まるで自分の妹か子どもに接しているようだ。それが千尋には心地よかったが、いつまでも甘えたままでいけないとも思ってる。

 「風早、私、何か変わったかな?」
 「そうですね・・・少し女王らしくなったとは思いますけど、千尋は千尋だと思いますよ」
 「それって大人っぽくないってこと?」
 「千尋の本質は変わってないってことです。それは大事なことですよ」
 「・・・ありがと、風早。風早に言われると素直に喜べるよ」
 「それは・・・嬉しいことを言ってくれますね」

 そろそろ朝議に出なければと千尋は風早に髪を梳いてもらう。これだけは風早の仕事のままだ。千尋は何だかこそばゆい思いだったが、風早と話すことができるのは嬉しかった。
 戦争が終わってから、気軽に話せる相手は少なくなった。それが千尋には寂しかった。それを表に出さないようにはしてきたのだが。
 千尋は王として生きることを決めたのだ。だからこそ、少女の部分は封印したのだ。


 忍人と別れたあの日から――――

















あとがき
 なんていうかすごく短くなりそうだったので風早の出番ができました。なんか、風早ってCPじゃなかったらすごく書きやすいです。多分風早が一番千尋ちゃんを愛してるせいだと思います。色んな愛で千尋ちゃんを見てそうですから。家族愛とか人間愛とか色々。
 まあ一話とあるように長編なわけですよ。全16話予定です。か、書ききれるかな自分・・・。
 辻褄が合わないところとかもきっとたくさん出てくると思いますが、頑張って書きたいと思いますので、よろしくお願いします。
 まあ、とにかく忍千が書きたいんですね。それも色々な忍千が。甘いのからシリアスから悲恋からギャグからエロまで幅広くですね。そして考え付いたネタがこれなわけです。最後までばっちり決めてます、細かい(自分の中では)設定を。気まぐれなので変わる可能性はありますけどね。











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