第十四話
“ずっと君を愛しく思っている。”
“国の為ではなく、君の為に生きたいんだ。出来れば君の傍で、ずっと”
その言葉を聞いて、千尋はもう涙を止めることは出来なかった。
ずっと抑え込んでいた、幼い恋心が溢れてくる。
初めて会った当初は、ただ認められたかった。
厳しく、それでいて優しい彼に、惹かれていった。
ずっと傍にいたいと思った。自分のことを好きになってほしいと、そう思った。
けれど、彼を死なせたくなかった。彼をあの世に奪われたくなかった。
そんな幼い恋心に蓋をした。そして彼が望む王となること。彼を好きになってから望んだ願いが、唯一の目的となった。その為に、どんなに過酷な戦地へも赴き、そして仲間を死に追いやった。仲間の死に涙する自分を殺し、良い国にすることだけを考えた。弱さなんか見せられなかった。忍人の望む王は感情を露にしない筈だ。逃げ出したりしない、誇り高き王だ。そんな王になりたくて必死だった。それこそが想いを忘れられない証であった。
「…っ…ごめんなさいっ、ごめんなさい、忍人さん…っ」
忍人にした仕打ちに罪悪感で何度潰れそうになったか。涙と共にそれが溢れ落ちてくる。
「私…私……忍人さんに生きてほしくて…!破魂刀に忍人さんを取られたくなくて…!」
「千尋……」
「でも、気付いたんです…!私、何てことしちゃったんだろうって!私の我が侭で、忍人さんの大事なものを奪ってしまったんだって!」
気付いたら尚更、会えなかった。嫌われていると分かるから。千尋にも譲れないものがあり、折るわけにはいかないものがある。それを失って、それでも生きろだなんて、それはどんなに残酷なことだろう。そのことを知った千尋には、引き返すことなど出来なかったし、そして前に進むことさえ怖くなった。それでも進むしかなく、ひたすら女王の道を邁進するしかなかった。
「嫌われてるって、そう思うと怖くて仕方なかった…忍人さんの顔をまともに見ることさえ怖くて…!」
「…もういい、千尋」
ゆっくりと戸が開く。千尋は戸の向こうに居た忍人を見詰めた。確かに年齢は重ねてはいるが、千尋を見る優しい表情は変わっていなかった。恋焦がれた忍人のまま。その彼が千尋の頬に触れる。
「……もっと早くに言っていれば良かったな。そうすれば、もっと早くこんな風に、君に触れられただろうに」
「忍人さん……」
「もう一度、俺の傍に居てくれないか?今度は王と臣下ではなく、人生を共に歩む為に」
「……はいっ!はい、忍人さん…!貴方が好きです…!ずっと好きだったんです…!」
影が重なる。忍人の腕の中は温かく、愛しい温度は更に涙を溢れさせた。
中つ国にまた春が訪れる。女王の傍らには、以前は虎狼将軍と呼ばれ、そして剣の代わりに今は女王の手を握っている。桜の下、離れていた時間を埋めるかのように幸せそうに寄り添い合う。
若葉の頃も、紅葉も……女王と男は互いを支え、寄り添い合った。
あとがき
別にやる気がなかったわけではない。ラブラブは番外編で書きます。これはこれで終わらせた方が私らしい気がしたわけです。何故なら私は甘いの書けなくて、書いたらギャグになるから、作品ぶち壊しだってオリジナル書いた時に言われたことありますwww
ここまで読んで下さった方に本当に感謝です。ずっと続き書いてこなかったのに…申し訳ないです。
定期的に更新…を心がけたいなと思います。就活でつらいけどwww
皆様が楽しく現実逃避出来たなら幸いです。
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