第一話
桐生瞬という男は龍馬から見て、よく分からない人物だ。誰に対しても冷たい。それは幼なじみで、兄妹と同様にして育ったゆきに対してもだ。美しい顔の造型も相まって、まるで人形のようだとも思う。
だが人形のように見えても実際には生きている人間であるし、表情を変える時を龍馬は知っている。
「ゆき、足下に気を付けて下さい。この辺りは道は整っていません」
「あ、本当だ。ありがとう、瞬兄」
冷たく見せてはいるものの、ゆきを見る眼差しは柔らかいことに龍馬は最近、気が付いた。慈しんでいるのならそれをもっと表現すれば良い。と、思うものの、瞬には瞬の事情があるのだろう。それを詮索しようとは龍馬は思わない。
だが、感情がある人間だと分かった以上、知りたいと思わずにはいられなかった。折角同じ八葉に選ばれ、同じ青龍の加護を受けている者同士なのだから、互いに縁があるに違いないと龍馬は思っている。こうして行動を共にしているのも何かの縁なのだろう。
「なぁ、瞬。さっきの怨霊は手強かったな」
「……ああ」
「だが、お嬢も無事だったし、皆、大した怪我もなかった。以前より腕が上がったのかもな」
「………ああ」
仲良くなるならば、まず相手に興味を持ってもらわねばならない。だが、瞬の返事はいつも必要最小限だ。言葉が多い龍馬とは大違いで、一方的に龍馬が喋っているに過ぎない。
せめて趣味などを知っていれば少しは何か違うのかもしれないと、ゆきに聞いてみることにした。
「瞬兄の趣味、ですか?」
「ああ。何か知らねえか?」
「そうですね…ドライブとか、よくしてましたよ?」
「どらいぶ?」
「はい。車っていう…その、鉄の塊を機械で動かして、道を走るんですけど、それを運転することをドライブって言うんです」
「鉄の塊が!そりゃすごいな!どうやって走るんだ?」
「車輪がそれを支えて、走るんです。動力はガソリンというか、石油というか…それを燃やして走ります」
「それで?それはどんなカラクリがあるんだ?」
「えっと…確か熱量を運動エネルギーに換えて………」
ゆきと話している内に話が脱線してしまった。しかし、ドライブはこの世界では出来ないし、馬を走らせるのとはまた違うらしい。あまり参考にはならなかった。
だが、知らないよりは知っていた方が良いだろうし、この話を手土産に瞬と話してみようと決めた龍馬は、夜中に瞬の部屋へと訪れることにした。いつも夕食の後は各々個人で行動していることが多く、瞬はゆきが部屋に戻ったのを見届けると用意された自室へと戻る。その時を狙って、龍馬は瞬の部屋を訪れた。
「おーい、瞬。今、いいか?」
「……何か用か?」
「別に用ってわけじゃねぇけど、ちっとは交流を深めたいと思ってな」
「………」
瞬はあからさまに不快な顔をする。だが、それに怯む龍馬ではなく、瞬が広げていた文献に視線をやる。
「何読んでたんだ?」
「知る必要はないだろう」
「教えない必要もないんじゃないか?見たところ、医学書か何かだと思うんだが…」
「………」
「あっちの世界のものか?」
瞬は暫く口を開かなかったが、龍馬は帰る気配がないどころか、黙る気配がなかった。瞬は一度大きく溜め息を吐き、いつも通り、何の感情も感じとれない話し方で言葉を発する。
「医学書だ。怪我が悪化して八葉が欠けては困る」
「じゃあ、こっちのは?」
「俺達がいた世界での歴史書だ。こちらの世界とよく似たことが起こっている。知らないよりはマシだろう」
「へぇ…」
真面目な奴だ、と龍馬は感心する。龍馬自身、様々なことを見聞きするのは好きではあるので、新しい技術や文献に目を通すことは苦にはならない。だが、瞬のそれとは明らかに違う。ゆきとは違い、こちらの世界にそれほど興味を持ってなさそうな青年は、こちらの世界の変革などには無関心だ。しかし総司のようにただ言われるがままに行動しているわけではなく、何らかの目的があって行動している。龍馬はその理由を薄々勘づいていた。
「全部お嬢のため…か」
「……俺はゆきの八葉だ。両親への恩もある。守るのは義務だ。彼女の為に尽くすのは当たり前だろう」
そう口にはするが、果たして本当にそうなのか。
(義務であんな目は向けないだろう)
ゆきを見る目が優しいことを龍馬は知っている。だが、それを言わない理由は分からない。そして瞬は言わないだろう。龍馬には瞬がゆきに優しくしない理由は分からないし、そうすることで瞬の得になるわけでもない。そこに瞬の事情があるのだと思う。家族同然のゆきにも言えない事情ならば、龍馬に話すわけがない。もっと心を許す仲になれば別なのかもしれないが。
「…まぁ、いいや。いずれ話してくれるかもしれん。それまで待つさ」
「……何の話だ?」
「とにかく、瞬。俺とお前は同じ青龍の加護を受けてる対だ。もっと仲良くしようじゃねえか」
「必要ない」
「そう言いなさんな。俺はお前に興味があるんだ。お前のことを知りたいんだよ」
「……用がないなら出ていけ。気が散る」
「確かに学問の邪魔しちゃいかんな。それじゃ、また来るからな」
もう来るなという瞬の呟きは聞かなかったことにする。
ゆきに冷たくあたるのに、大事に思って、寝る間も惜しんで彼女の為に行動する瞬を、もっと知りたいと思った。相容れない仲ではないと思う。瞬には感情があって、何らかの想いに基づき行動している。その想いを少しでも知りたい。龍馬はそう思った。
あとがき
龍馬×瞬の第一話です。はい。私の龍瞬の基盤を作ろうと思いました。ついでに祟ゆきも書こうと思いました。祟くんに幸せになってもらいたいのと、瞬兄を救う=祟くんを救うになるわけで、ゆきちゃんも動かしやすいし(そんな理由)
ぼちぼち長いので、ごゆるりとお付き合い下さいm(_ _)mそうごゆるりと…
今回は龍馬さん、瞬兄ともっと仲良くなりたいと思う回でした。だって、いくら龍馬さんが人見知りゼロでも瞬兄の態度は流石になかなかきついと思うの(^q^)心折れる態度とってる気がするwwwでもそれでも仲良くなりたいと思わせる何かを持たせたくてね…うまくいってない気もしますがwww
ここまで読んで下さって、というかこんな需要の無さそうなものを読んで下さって、ありがとうございます!!龍瞬の輪が広がることを願って、まだまだ書こうと思います。近いうち裏作りたい。
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