01.愛の芽生えた後の話














 愛し合った末に子が出来るというのは当たり前のことだった。それを今でも……後悔している。






 中つ国を取り戻し、俺と千尋はまるで自然の流れの身を任せるように惹かれ合った。幸い、葛城の族に生まれた俺は王族の伴侶として申し分なかった為、千尋と婚姻を結ぶことも叶った。互いに幸せだった。
 そんな二人の間に子が宿るのは不自然なことではなかった。千尋も、俺も、それを望んだ。

「女の子だったらもう名前は決めてるんです」

 そう千尋は幸せそうに笑った。まだ女児が生まれるとは限らないというのに。それに対して、俺は呆れながらも笑っていた気がする。
 だが、いざ出産となると難の色が見え始める。
 徐々に顔色が悪くなる産婆、慌ただしくなる周囲をよく覚えている。男はその場にいることを許されていなかったし、千尋の代わりにこなさなくてはならない公務もあった。ずっと傍にいることは出来なかった。
 それでも、寝る間を惜しんで、建家の前で待った。傍にいくことが出来ない代わりに、唯一出来る、何の気休めにもならないものだ。千尋の為に何も出来ない自分が無力だった。
 長いお産は一つの産声で状況を変えた。喜びの声と、一拍置いて悲鳴のようなざわめきが耳に入った。咄嗟に中に入ろうとしたが、采女に止められた。医師の邪魔になってはならない、と。実際、俺にはどうしようもなかったのだから、結果は変わらなかっただろう。だが、傍にいてやれなかったことが悔やまれる。
 千尋が息を引き取ったのは翌朝のことだ。桜が儚く散る、穏やかな朝だった。
 風早から後に出産後の出血の為だと聞かされたが、死因などどうでも良かった。千尋を失った事実がどうしようもなく、俺を打ちのめした。
 だが、悲しみに浸る時間などなかった。千尋が亡くなった今、王位を継ぐのは生まれたばかりの赤子で、その赤子が政を理解出来る筈もなく、代わりに俺がやることになったのだから。
 葬儀や、色々なごたごたがあったが、その間の記憶は曖昧だった。悲しみに暮れるより先に、千尋の国を守らなくてはという想いが強かった。俺には政の経験が足りなかったが、周りの手助けもあり、何より必死に冷静を装い、働き続けた。そうすることでしか、守る術を知らなかった。
 漸く子の顔をしっかりと見ることが叶ったのは、千尋の死から三ヶ月以上が経過した頃だった。いや、正確に言えば何度も見た筈なのだが、よく覚えていないのだ。衣にくるまれた我が子を、子だと認識出来ずにいた。
 だが、漸く時間を取ることが出来、子を抱いた時、俺は酷く落胆した。
 濃紺の髪は、千尋の淡い陽光のような色とは似ても似つかぬ闇色で、顔付きも千尋とは違う。そう、まるで自分のような子ども。
 瞳の色は晴天の空色だったが、酷く落胆した自分がいた。





































あとがき
 はい、忍千前提のオリジナル話でした。酷い話だなあwと自分では笑って過ごせますが。

 忍人さんは自分にそっくりなので漸く、自分の子だとは思うわけですが、でも愛する人が死んだらそれも嬉しくないよな、と。

 忍人さんも置いていかれる悲しみを知るべきと思ったことがきっかけで思い付いた話です。ので、もう暫くつらい展開が続きますが、ご勘弁して下さいm(__)m












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