04.二人の話














 父様に会うことが出来なくても、父様の様子を知ることは出来る。皆が話す言葉だったり、時々私に教えてくれる人もいたりするから。

「那岐、なーぎっ」
「ちょっと……そんなに呼ばなくても聞いてるよ。何?お姫様」
「あのね、那岐、今日は父様、どうなさってた?どんなご様子だった?」
「僕も毎日会うわけではないんだけど……とりあえずそんなに変わりはないよ。急に何かがない限り、早々変わることもないんだから、心配する必要はない」

 那岐はいつも気のない返事しかしないけれど、文句を言っても構ってくれる。それにきどう?について、私が出来ることは教えてくれる。父様は剣や弓を扱うことを許してくれなかったから、私が出来ることをやりたくて……。

「……ねえ、父様、今日、お顔の色はどうだった?」
「……相変わらずだよ。疲れてるのかもね」

 そう、父様はいつもお顔の色が優れていなくて、私はそれがいつも不安で、父様がいつかいなくなってしまいそうで……。

「妙な顔しないの。ほら、今日も鬼道の話を聞きにきたんでしょう?と言っても、薬草の話なら僕もそれほど詳しい訳じゃないんだけど」
「………うん!」

 父様に元気になってもらう為に、私なりに考えて、薬のことをお勉強することにしたの。身近で知っているのは那岐だったから、那岐に教えてもらってる。

「僕より遠夜の方が詳しいんだけどね」
「遠夜の方が?」
「うん。巫医だからね。薬草も詳しいよ」

 遠夜と会うことはあまりないけれど、優しい人だった記憶がある。
 もし、遠夜なら、父様を元気に出来るだろうか。そしたら、父様も少しは笑って下さるかもしれない。褒めては下さらなくても、私に笑いかけて下さったら……。




 初めて宮を抜け出してきてしまった。戻ってきたら、怒られてしまうかも。ううん、怒られてもいいの、ちゃんと治してもらえれば。
 多分、道は覚えてる筈。一度、風早に連れてきてもらって、難しい道ではなかったから。

「……よし!」

 道を進む。ちょっとでこぼこしてるけど、きっと大丈夫。遠夜にお薬を貰って、父様を元気にしてもらうの。
 けれど、進んでいくうちに思ったほど近くなくて、あと、天気が悪くなっていることに気付いた。
 どうしよう……って、思ったけど、ここまで来たんだから進もうと決める。早く父様にお薬をあげたいもの。
 けれど、雨が降り出して、最初は進める程度だったけど、強くなってきて、進むのも大変で……仕方なく、大きな木の下で雨宿りをする。

「……寒い」

 濡れた身体は思った以上に冷たくなって、震えが止まらない。けれど、自分で来た以上、弱音を吐くわけにはいかない。そんな情けないことは、王族として出来ないから。悪い子は嫌われちゃう。
 雨は思った以上に止まなくて、震えも止まらないままで。けれど、今頃私を探しに皆も外に出てるかもしれない。そう思うと、泣けなかった。だって結局迷惑をかけたのは私で、ジッと物音に耳を立てる。誰か来たら、反応出来るように。
 雨の地面を叩く音や、風の吹き抜ける音。寒いのに、何だか音は優しくて。ぼんやりとする頭で、ずっとその音を聞いてた。
 遠く、音が遠くなる。ふわふわする。

(……姫?!)

 気配を感じて、顔を上げたら、遠夜がいた。あ、良かった。遠夜だ。父様の為にお薬を…………。





 目を開けたら、いつも通りの寝所があって、今までのことは夢だったのかなって思う。でも、身体がぽかぽかするの。

「姫?」

 父様?
 父様が私を覗き込んでいて、挨拶をしなきゃ、と思うけど、身体が起き上がらない。

「気分はどうだ?」

 父様が私の頬に触れる。
 父様の手は冷たくて、でも優しい。嬉しいな。父様が一緒にいてくれる。嬉しい。嬉しい。

「大丈夫……です」
「…………」

 父様は喋られない。でもいいの。だって、一緒にいてくれる。それだけで幸せ。

「寂しいか?」
「……?」
「母が恋しいか?」

 母様が?
 今まで考えたことなかった。母様に会ってみたいと思ったことはあっても、寂しいなんて思ったことない。だって……。

「父様が……」
「……」
「父様がいればいいの……」

 父様がいるだけで、寂しくない。嘘も何もなく、そう思う。

「……ゆっくり休め」
「父様は……?」
「どうした?」
「……いっちゃうの?」

 父様は困ったように笑って、私の頭を撫でる。

「今日は傍にいてやれる。だから、寝てくれ」
「はい……」

 目を瞑る。でも、父様のいる気配が嬉しくて、心がすっごくあたたかいの。






































あとがき
 漸く良い話になってきた気がします(当社比)。
 ちょっと、姫ちゃんが大人らしくなり過ぎた感はありますが……うーん、難しいです。

 ここまで読んで下さってありがとうございます。続きも読んで下さると嬉しいです。











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