03.戻らない後悔の話














 千尋が亡くなって幾年と過ぎたが、この喪失感はいつまで経っても消えないままだった。

「ねえ、忍人。いつまで姫にあんな態度を取るつもりですか?」
「馴れ馴れしくするものではないだろう。臣下の前ならば尚更だ」
「君は父親なんだから、もう少し甘やかしてもいいんですよ。姫の身内は君だけなんです。千尋の分まで甘やかしてもいいくらいだ」
「…………」

 風早から指摘されなくても、分かっていることだ。ただ、接し方など分かる筈もない。
 今、中つ国直系の王族は姫しかいない。そしてそれは姫が死ねば、また国が乱れることを意味する。姫が負う責任は他の王族より重いものになる。それを思えば、必要以上に厳しい口調になってしまうんだ。姫を失うわけにはいかない、不幸にするわけにはいかない。だが、姫を不幸にしているのは他ならぬ俺自身なのかもしれない。
 父とはどういうものだっただろうか、と記憶を探るが、父の姿を思い出そうにも、幼すぎて覚えていないのだ。母も……記憶にない。参考になる人物の記憶が薄いのが、恐らく姫に対する原因となるのか、いや、これは言い訳に過ぎないのかもしれない。だが、結局、どうしたら良いのか分からないのだ。こんな時に千尋がいてくれたら、と弱音を吐きたくなるが、千尋はもういないのだ。俺が奪ったも同然で――。
 子を為さなければ、千尋はまだ生きていただろう。王族として子孫を残さねばならないことは分かっていたが、もっと時期があったかもしれない。もっと、国が安定してからでも良かったかもしれない。
 それに、姫を産む時にもっと万全の体勢でいればと、もっと出来たことがあったのではないかと、後悔が止まないんだ。
 逃げであると知りながら、自分を責めることを辞めることが出来ずにいる。そして、姫を初めて見た時、落胆した自分も許せなかった。
 何故、この子は千尋に似ていないのか。自分に似ているのか。俺が望んだのは千尋の面影が残る子で、責めるべき自分に似た子ではなかった。愛する人に似た子が欲しかった。そうならばうまく愛せる、と――。
 そう、一瞬でも思った自分をこの世の誰よりも嫌悪した。姫が悪いわけではない。刹那であってもそう思った俺が、誰よりも残酷なので、人の子の親である資格なんてない。
 姫が俺の言葉で一喜一憂すれば、やはりこの子は俺の子なのだと分かるし、そしてこんな俺にしか依り代のないこの子を守るのは俺しかいないと、そう思うのに、うまくいかないのだ。
 この子が俺と同じように後悔をせずに済むよう、正しき道を歩けるよう、何より不幸にならぬように、と思えば思うほど、厳しくなるし、それに自分自身が罪悪感を覚える。親として残酷なことも考えた俺が、こんなこと言えた義理はないというのに、優しくすべきなのに、うまくいかない。
 どうしたらいいか分からない。千尋、君がいてくれたら――なんて、考えて、尚更自己嫌悪する。

「……忍人、難しく考える必要はないんです。ただ、単純に貴方がしてあげたいこと、姫が貴方に望むだろうことをすればいいだけなんです」
「……したいこと、か」

 今更な願いだ。ずっと政務に託つけてしてこなかったことをしたいだなんて、姫が望むのだろうか。




































あとがき
 忍人さんがちょっと酷い酷い人です。けど、忍人さんにとって子を愛すって自然なことではない気がするんです。部下とか下の者を慈しむことが出来ても、自分の子に特別って難しそうだなあ……と。
 何より公式で両親とあんまり縁が無さそうだったんでね。きっと愛する人がいて、それに習って、ちゃんと自分なりの愛情を作れる人じゃないかなと思ったんです。
 今回の読みにくさはMAXだったと思いますが、続きも読んで下さると嬉しいです。次はもっと読みやすいの書きます、はい(-_-;)











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