僕と君、或いは君と僕
※祟くんとの捏造ED後 ゆきちゃんの設定についてはこちら














 同じベッドで、隣で眠っている恋人を祟は見下ろす。自分より年上の恋人は、誰よりもあどけない顔で眠りに就いていた。
 同じベッドで眠ると言っても、まだ子どものようなキスしか交わしたことしかないし、神に誓っても良いくらい清い関係だ。祟は勿論、ゆきを性的対象として見ているが、ゆきはどうかは分からない。そもそも、そういう欲求があるかどうかも。知識のない恋人、そして未熟な己。条件が重なって、祟は未だに手を出せずにいる。少なくとも、兄の身長に追い付くまでは我慢しようと思っている。流石に責任を取れる年齢までは待てないが。
 そっとゆきの柔らかい髪に触れ、鋤く。ゆきは目を覚ますことはない。胸をゆっくり上下させ、穏やかな眠りに就いたままだ。

「……馬鹿な人」

 一度裏切った自分に対して、信頼しないという選択肢を持たないゆきを祟は理解出来なかったし、不快だと思った。祟は自分の矮小さをよく知っているので、理解出来ないものは素直に不快だと思うし、それを改善しようと思ったこともない。兄のように他人の為に己を投げ出せる人間になりたいと思ったこともない。
 不快だと思いながらも、祟はそんなゆきが愛しくて仕方なかった。馬鹿な人、愚かな人と詰りながらも、そこが愛しいのだから、どうしようもない。

「そんなに愛されたいんだね……」

 兄が己を犠牲にするのと、ゆきが己を犠牲にするのとでは、意味合いが異なることに気が付いているのは、おそらく祟だけだ。兄である瞬も、ゆきでさえも分かっていない。根本が異なることに、誰も気付かない。祟が気付けたのは、単純に似ているからだ。
 気が付かなければ、ゆきは聖女そのものだ。その姿に誰もが好意を抱く。自己犠牲の姿に皆、心打たれる。それこそがゆきの狙いだというのに、そのことに誰も気が付かない。
 瞬とゆきの違いはそこにある。瞬は愛する人の為に己を捨てる。その気持ちを祟は理解出来ないし、馬鹿らしいと思う。その点、ゆきは愛される為に己を捨てる。彼女にとって、自分の命さえ二の次で、要は愛される行動を取り、愛してもらうことが大事なのだ。こちらも祟は理解出来ないが、瞬よりは分かるし、そのあさましさがとても愛しく感じる。

「でも、かわいそうだね」

 何故なら彼女は満たされていない。愛されているのは虚像であり、ゆきではない。よく分かっているのだろうけれど、彼女は馬鹿の一つ覚えのようにそれしかしない。それしか知らないからだ。

「……かわいそう」

 馬鹿でかわいそう。愚かでかわいそう。愛されなくてかわいそう。何より、こんな自分にさえ手を伸ばさなくてはいけないゆきがかわいそうだった。
 裏切られたならば、嫌えばいい。憎めばいいのに、それをしない。ゆきは馬鹿の一つ覚えのように手を差し伸べることしか出来ない。これが彼女の処世術で、愛される為の術だ。愛が足りない彼女は、それを量で補う。『それは違う』と目出度い人間は言うかもしれない。確かにそれは正論で、だから祟もゆきを馬鹿だと思う。だが、足りないものを補おうとすることは当然で、ゆきの行動だって、当然のことだ。違うからとそれを捨てたところで、愛される保証などないというのに、そう口にするのはあまりにも目出度い考え方だと祟は思う。
 そもそも、ゆきにはこれしかないのだから、それを奪ってしまったならば、何も残らないではないか。彼女の処世術は彼女に根を張り、既に切り離せなくなっている。本当のゆきは、もう誰も知らないし、もしかしたらどこにもいないのかもしれない。

「本当に、馬鹿で……」

 けれど、その愚かさが祟を救った。本当に目出度い奴の手ならば祟は取らなかっただろうし、そんな奴は嫌いだ。強い人間なんかに祟を理解出来るわけもなく、ただ優しい人間に祟は慰めてほしくない。自分がもっと惨めになることを知っているからだ。
 祟は自分が矮小で、強い人間でないことくらい分かっている。生きたいと思えば、大切な人も妬むし、裏切る。消えてほしいとも思う。それに罪悪感さえ抱かない。愚かな人間は祟も同じだ。だが、簡単に正義を振りかざす人間よりは愚かではないと思う。

「……かわいそうだよ」

 ゆきを分かってあげられるのは、祟だけだ。愚かな人間で、ひたすらにもがいて、生きる。間違いだと知りながら。そういう意味で祟とゆきは一緒だが、理解出来る人間が祟しかいないという事実は祟を嬉しくしたし、また切なくもした。

「本当に……僕しかいないんだね」

 裏切り者だけが、ゆきを理解する。ゆきは何度裏切られたって、その裏切り者の手を放せない。何度傷付いても、そこしかない。悲しくて、愛しい存在だ。

「僕が愛してあげる……」

 ゆきの額に口付けを落とす。温かな体温は、まるで子どものようで、祟は心地好く思った。
 かわいそうなゆきを理解するのは祟だけだ。ゆきでさえも分からない感情を理解するのも祟で、それを無意識に感じ取っているゆきは、その手を離すまいと必死に、何度でも祟に手を伸ばす。それが祟を救い、苛み、そして傷を癒した。
 いつだってゆきは祟に微笑みかける。愛される為に、何度でも。そして祟は求められている悦びと、こんなことしか出来ない愚かな少女への同情から、愛さずにはいられない。そして誰よりも愛してくれる祟を、ゆきは誰よりも求めるのだ。

「僕が愛してあげるからね」

 ゆきは祟を見るより他にない。かわいそうなゆきの一番欲しいものは、彼女にとって一番残酷な存在が持っている。いずれ祟無しでは生きられなくなるのだろう。それが祟の望みだけれど、酷く心が痛いのは、おそらく祟がゆきを愛しているからで。

「……切ないよ、お姉ちゃん」

 ただ、欲しがる子どものままでいられたならば、祟もこれほど苦しくなかったのだろうけれど。祟は愛を知ってしまった。らしくもなく、他人の幸せを祈っている。勿論、自分の幸せが最優先ではあるが、ゆきの幸せも祈っている。

「愛してる、お姉ちゃん……」




































あとがき
 私の書く祟ゆきなんてこんなものですよ。これで捏造ED後だと言い張るんですからびっくりですよね。
 祟くんの方がまともな精神状況です。うちの祟くんに純粋さの欠片もないのが残念です。お前誰だよ状態orz
 ゆきちゃんについても相当賛否のありそうなゆきちゃんですが、誰が何と言おうとうちのゆきちゃんはこんな子です。
 公式のゆきちゃんと祟くんに近いのを期待してた人には本当に申し訳ないのですが・・・。

 ここまで読んで下さってありがとうございます。
















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