第十話










 八年間、ずっと中央の仕事とは離れていたし、何より忍人が就いていた役職は将軍職だ。文官が何をしていたかを全く知らないわけではないが、何をやるべきなのかということを確実に言えるわけではない。地方職であれば、この八年間でそれなりに経験を積んできたが、覚えなくてはいけない仕事はたくさんあった。
 今、風早に千尋が管轄としている場所を忍人は教えてもらっている。忍人の仕事は千尋の補佐が主だ。もし仮に性別が逆であれば王の伴侶としての仕事もあっただろうが、男である忍人が王の為に着飾る意味は女性のそれよりない。当然、後宮もない。代わりに女性である千尋が行きにくい偵察などが今後の忍人の主な仕事になるだろう。千尋がもし子を成したならば、尚更忍人がやるべき仕事は増える。
 千尋の為に忍人はこれらの仕事を覚えようとしていた。せめてこういう場面だけでも千尋の役に立ちたい。
 しかしそう思う傍らで戸惑っていた。昨夜のことが忘れられない。まるで忍人個人を見ていないような、それが正しい王族なのかもしれないが、千尋はそういう人物ではなかった筈だ。誰にでも優しく、誰の痛みも自分のものとして受け止める。そんな千尋を、八年前の忍人は危ういようにも思っていたのだが、そこが千尋という人物の良いところだとも思っていた。
 変わってしまったのだろうか。そう思うが、そうではないと考えている自分がいることに忍人自身気付いていた。

 「忍人、疲れていませんか?ここ連日忙しかったでしょう」

 風早は二人きりの時は忍人のことを名前で呼ぶ。風早は変わっていないと忍人を安心させる。

 「心配しなくとも、この程度のことで倒れるほど身体は衰えていない」
 「確かに忍人に限って体調管理を怠ることはないでしょうけど、無理もしますからね」
 「・・・それは言葉の意味が矛盾していないか?」
 「ですが、忍人も・・・千尋も、そうですから」

 風早は千尋のことを話す時、とても柔らかい表情を見せる。それは本当に昔から変わらない。
 今も変わらず、千尋を愛しているからだろう。

 「・・・風早は変わらないな。相変わらずだ」
 「そうでしょうか。では、忍人はどこか変わりましたか?」

 そう聞かれて、忍人は考える。果たして忍人は変わったのだろうか。
 少なくとも穏やかな気持ちで過去を振り返ることはできるようになった。

 「人は成長しますけど、本質は変わりません。今も昔も、忍人が真面目なことも、頑固なことも・・・。俺も、千尋だってそうです」
 「・・・風早」

 風早は忍人の不安をどこか見抜いているように見えた。千尋が変わってしまったのではないかという不安。
 だが、風早は変わっていないという。嘘を吐いているようでもない。

 「千尋は変わったんじゃない。ただ年月が経って色々見えてくるようになっただけです。それは忍人も同じでしょう?」
 「・・・・・・」
 「だから忍人。千尋と話してみて下さい。最初はうまくいかなくたっていい。二人は夫婦なんですから時間はまだまだあります。弱音を吐けるのだって、夫婦である忍人しかいないんですよ」
 「風早・・・」
 「俺にはもう、手の届かないくらいくらい成長しましたから。隣にいられるのは忍人だけなんです」

 風早はずっと千尋を大切に想ってきた。誰よりも長く、誰よりも温かな気持ちで。
 それを忍人は知っている。気持ちの大きさだけならば負けるつもりはないが、風早ほど千尋を大事にできるかと言われると自信はない。風早が千尋に抱いている気持ちと忍人が千尋に抱いている気持ちは本質が違う。風早のような陽だまりのような温かな気持ちではない。
 その風早が忍人に千尋を任せようとしているのだ。それだけ風早に期待されている。信頼されているのだ。
 ならば忍人は全身全霊で応えなくてはいけない。

 「・・・分かった、約束する。千尋とはちゃんと話そう」
 「ありがとうございます」
 「いや・・・礼を言うのは俺のほうだ」

 風早は忍人のことを励ます為にこんなことを言ったのだ。そのおかげで忍人はまた千尋と向き合う勇気をもらえた。
 風早だけではない。今、ここにいられるのは忍人一人の力ではなく、誰かの助けがあったからだ。
 こうして生きていられるのは千尋のおかげだ。見たかった平和な国をこうして見られるのは千尋のおかげなのだ。
 だからこそこの気持ちを千尋に伝えたい。いや、伝えなくてはいけない。
 あの日から進むためにも。




































あとがき
 結局のところ、全然更新出来ませんでした、今週orz
 一応出来てるには出来てるんですけど、ちょっとこの話、いらないんじゃないかなとか思う部分があって、悩んでたら全然進みませんでした。
 とりあえず、どうするかは考えます。なくす方向でいこうかなとか思ってますが。
 今回の話についてですが、確かに私は忍千は好きですけど、風早が一番千尋ちゃんを愛してると思ってます。愛という意味では風早に敵う人はいないでしょう。好きという意味では皆同様に強いとは思っていますが、やはり愛という意味では風早が一番でしょう。だから風早が一番千尋ちゃんのことを分かっているだろうな、ということです。
 プロット立てた割にはところどころ書こうと思ってた話と違うんですが・・・うーん、やはりお話を書くのは難しいです。
 ここまで読んで下さってありがとうございます!















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