第八話
























「私を呼んだあの少年に免じて、合わせ世は残しましょう。ですが、愛しい子。君にとっての脅威は本当にそれだけでしたか?」





「いやー、本当に良かったな」
「……危うく怪我だけでは済まなかった。良い訳がないだろう」
「そう言うなよ、瞬。皆生きてるんだ。お前の弟も……良かったじゃないか」
「……ああ」

 この事態を引き起こしたのは、少なからず祟のせいだというのに、龍馬は祟が生きていることにも良かったと言ってくれる。瞬でさえ、一時は自分の手で始末をつけようとしていたというのに、そんな祟を気に掛けるのは、身内を除けばおそらく龍馬だけだろう。
 瞬も、自分の弟である以上、生きていることを望んでいた。祟の危うさに気付いていながら止められなかったのは、間違いなく自身の弟への情であり、知っているかどうかは分からないが、龍馬がそれを汲み取ってくれたことは瞬には嬉しかった。
 戦えばそれで終わりというわけにはいかず、皆が多少の差はあれど怪我を負っている。治療をして漸く息を吐くことが出来る。そして最後に、治療をする側だった瞬が龍馬の手によって手当てをしてもらっている。手当てと言っても酷い傷は既に瞬自身が応急措置を取っていたし、少しくらい置いておいても大事ない傷だ。

「瞬はこれからどうするんだ?」
「これから?」
「お嬢はもう少しだけこっちに残ってから帰るらしいが、お前さんはどうするんだ?」
「俺は……」

 瞬は今まで“これから”のことなど考えていなかった。何がしたいとか、どうなりたいとか考えたことがなかった。否、考えないようにしてきた。
 瞬の人生はゆきを中心に回っていた。これからも恐らくは、ゆきありきで回るのだろうけれど、意味合いが変わってくる。ゆきには神子として以外の人生がこれから待っているし、ならば星の一族としての瞬の人生もここで終わるのだろう。これから待つのは何ら役目も持たない、桐生瞬としての人生だ。

「……分からない」

 役目を持たない自分の人生など瞬には想像出来ず、率直にそう答えた。

「暫くはゆきに付いていようとは思う。ゆきは……妹のようなものだから」
「確かに、お嬢だけが少しだけと言っても、こっちに残るのは危ないだろうし、その方がいい」
「それ以外は全く考えていない」

 全く考えていないというと語弊がある。瞬は瞬なりにいくつかある自分の路が見えているのだから。
 一つは龍馬と歩む路だ。傍にいたいと思う気持ちは非常に強く、出来れば共に生きたいと願っている。それは役目に囚われていた時から、隠しきれない瞬の本心だった。
 だが、そうなるとこちらの世界に残ることになるのだろう。それを安易に選ぶには、瞬自身が元いた世界に柵がありすぎた。
 ゆきは何れ元の世界に戻ることになるし、まだ瞬と祟を育ててくれた義理の両親に対して何の恩も返せていないのだ。そのことに後悔する気がして、瞬は選べずにいる。
 それを瞬は龍馬に話せなかった。隠していたい訳ではなく、うまく言い表す言葉が見当たらないのだ。

「……迷ってるのか?」

 よく龍馬は人を見ているが、瞬の核心を見透かしたかのようにそう言った。
 龍馬から見れば瞬は薄情な男なのかもしれない。時空を越えてまで助けたというのに、瞬はそれでも龍馬をすぐに選べないのだから。
 申し訳ない気持ちもあるが、謝るのも違う気がして瞬は黙ったまま視線を下に向けた。

「仕方ない。お前さんもまだ若いからな。いっぱい選べる路がある。それをすぐに選べないのも分かるさ」

 ぐしゃぐしゃと龍馬が瞬の頭を撫でるものだから、瞬は慌ててその腕を退ける。
 何をするんだ、と非難視線を龍馬に投げたら、龍馬は人好きのする顔で笑っていた。

「夢に想いを馳せるのもいいもんだろう?」
「夢……」
「そうだ。お前さんも、俺も、これから何だって出来るんだ。そう暗く考えず、明るい未来だけ考えようぜ」

 お前にはそれが出来るのだから。龍馬はそう続けた。瞬の迷いに気付いていながら、非難しないどころか、明るい未来を見ることを許した。前向きな龍馬らしい考え方だ。
 瞬は今まで危機回避の為、思考は常に最悪の結果を想像してきた。そのせいか、明るい未来をうまく想像は出来ないが、叶わないかもしれない最高の未来に想いを馳せてみた。それは温かで、自然と笑みが溢れた。




































あとがき
 短めです(・ω・`)あと、ちゃんと天海の言葉をゲームして回収しようと思ったのですが、まぁ、良いかな、と開き直りました。そもそもが捏造ですしw
 天海の内心としては、勿論、自分を呼んでくれた祟くんへの恩もありますし、何よりゆきちゃんがまた瞬兄を失うようなことがあれば命を落としちゃうことを知っているからこその諸行です。ゆきちゃんのことを散々見てきたから、そうすることを分かってのことです。
 まぁ、解説のいる小説って何だよって感じですけど。こういうの良くないって知っているんですけどねorz

 ついでに熱いアクションは書けないので戦闘シーンとかもカットですwうおおおおお的に話はあんまり……

 ここまで読んで下さってありがとうございます。ただもう一波乱は起こす気があるので…………はあ?(;`皿´)みたいな気分になるやも……すみません。もう少しだけですので、お付き合い下さると嬉しいです。



















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